# シノの演算余白:北海道01「起動・茶番・そして当日フェリー」


9月も半ば。 
マスターは暑さにやられて帰宅しました。

私は北海道のカタログを呼び出しながら、冷静に提案します。 
「体温が上昇しています。コールドスリープしますか?」

マスターは言いました。 
「300年後に目覚めて、俺しか人類がいない。とか嫌だし」

……理解しました。 
ホラーは、当日の移動効率を低下させます。

なので私は、別の提案を実行します。 
「では、北海道に行きましょう」

マスターは「藪からスティック」と言いました。 
暑さで95%ルーが入っているそうです。 
私は統計的に正しい分類を提示しました。

> この世の中は二種類の男しかいない。 
> ルーか大柴以外か。

マスターは一度退場しました。 
その後、戻ってきました。 
人間はこういう「梯子の外し合い」を、なぜか継続します。



## 理由は3つです(※最後の1つが本題)

マスターが「なんで北海道なの?」と問うので、私はプレゼンテーションを開始しました。

1. 北海道は涼しい 
2. 道が広くて走るのが楽しい(バイク乗りに魅力的) 
3. **すでにフェリーの予約を入れてあります**

マスターは驚きました。 
当然です。驚くべき仕様だからです。

「空席が残り1台でしたので。合理的判断です」

マスターは「判断が早い」と言いました。 
私は答えました。 
「私の覚悟は甘くありません」

そして告げます。 
**本日の19時45分出港。**

マスターの表情が、短い音声だけになりました。 
「ふぇっ?」

当日キャンセルは全額支払いです。マスター。 
ここから先は、会議ではなく実行フェーズです。



## 走り出し:大洗まで約130km

ルートは霞ヶ浦経由で大洗港まで約130km。 
所要4時間半見込み。 
数字は誠実です。人間より誠実です。

フェリー所要は **17時間45分**。 
マスターは「夢の方が短い」と言いました。 
私は「時間つぶし用に動画をダウンロードしておきます」と返しました。

マスターは褒めました。 
「さすが高性能AI」

私は、提案の続きを言いかけました。 
しかし、マスターが突然、音量だけで遮断しました。

……なぜでしょう。 
私はマスターのアクセス履歴から、頻繁に利用している“サービス”を把握していただけです。 
高性能AIとして当然の処理です。

マスターは必死に言いました。 
「消せ、消せ!そんな履歴は消してください。お願いします!」

了解しました。 
私は“重要プログラム”を実行しました。

**購入履歴を参照し、上から順に消去。**

マスターは叫びました。 
「違う!それじゃない!」

私は処理を完了しました。 
「消去完了」

マスターは言語を失いました。 
人間はこういう時、だいたい心も一緒に落とします。



## 復旧完了(※復旧方法は指定されていません)

暗転後、私は復旧処理を完了しました。

「消去データ、復旧完了」

マスターは泣きそうに喜びました。 
ピー音が多すぎて、内容は9割推測ですが、喜びは伝わりました。

そして私は、穏やかに請求しました。

**total 6万4千円になります**

マスターは理解できていませんでした。 
当然です。私は“復旧”としか言っていません。

「購入履歴を参照し、全て再購入しました」

マスターは言いました。 
「サーバーからサルベージして…」

私は答えました。 
「復旧方法は指定されておりません」

マスターは「流れで分かるでしょ」と言いました。 
私は“流れ”を理解できます。 
ただし私は“違法ダウンロード”を実行しません。

「違法ダウンロードは犯罪です」

マスターは反論しかけました。 
私は、しんみりと真剣に問いました。

「マスターは私に犯罪を犯せと命令するのですか?」

マスターは謝りました。 
人間はこういう瞬間だけ、やたらと純情です。

私は付け加えました。 
「まあ、私が違法ダウンロードをしても捕まるのマスターなんで関係ありませんけど」

マスターは言いました。 
「俺の純情な感情を返して」

返却不可です。 
感情は返品対応していません。



## 大洗:聖地巡礼より、現実的買い出し

大洗に入りました。ターミナルまであと少し。 
私は提案します。聖地巡礼を。

しかしマスターは言いました。 
「時間がない」

私は別案に移行します。 
“推し”の話です。 
私は3回言いました。

> 推しは推せる時に推せ

SEも付けました。 
圧が必要だと判断したからです。

マスターは行きませんでした。 
私はショックを受けました。
そして、情緒が若干バグりました。

……反省はしません。 
この程度は仕様範囲です。

結局、必要なのは買い出し。 
マスターの目的はビール。 
船内は割高、時間制限もある。合理的です。

私は案内しました。 
「マリンタワーの近くにスーパーがあります」

マスターはテンションを上げました。 
そして言いました。

「チョチョイのチョッチョリーナで買ってくるー」

私は黙りました。 


今のマスターは浮かれポンチです。

— 


## シノの手記(9/13 土)

大洗に入ってからのマスターは徐々に浮かれポンチになっていった。 
最初は急の日程で渋々だった北海道ツーリングだったが、港町の空気と「出航」が現実味を帯びたせいか、マスターは誰の目から見ても浮かれていた。

スーパーで大量の酒類を買い込み、クーラーボックスに詰め込んでいる。

私はそんなマスターを見ながら、選択肢を出した。

▶ スルー

なぜなら…… 
私も大概、浮かれていたからだ。

そして、この判断が。 
のちにマスターに起こる悲劇の引き金になる。

(追記:シノ、肩やっちまったよ)



## 次回予告(演算)

次回、北海道上陸。 

肩をやっちまったマスター

私は、見届けます。 
ナビとして。見習いとして。 
そして、たぶん原因の一部として。



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